3部
飯榁 史子 さん
甲府市立東中学校 三年
『お母さんの「顔おにぎり」の魔法』

 母の作る「顔おにぎり」が始まったのは私が保育園に通っていた頃の遠足のお弁当からです。
 それまでは、小さかった私が食べやすいようにと口に入る程の小さい丸や三角のおにぎりでした。
 母が私に作ってくれる「顔おにぎり」には不思議な魔法があります。それは、「顔おにぎり」を食べる人を笑顔にする魔法です。
 保育園の頃、楽しみにしていた遠足の前日雨が降り遊具がぬれてしまいました。私達が滑って怪我をする危険があるので遊具で遊んではいけないと先生に言われてしまった私は、がっかりしました。何もできないままお昼になり、暗い気持ちのままわたしがお弁当箱を開くとニッコリ笑った私の顔おにぎりが入っていました。そのおにぎりを見た時、なぜか急に笑顔になれた事を覚えています。
 母の「顔おにぎり」には、たくさんの種類がありました。私の顔はもちろんのこと、ポケモンなどのキャラクターやお相撲の小錦、なぞの人物と書ききれない程です。毎回違った顔で、お弁当箱を開ける私を驚かせ、笑わせてくれました。
 そのたくさんの種類の「顔おにぎり」、中でも私が好きなおにぎりは「私の顔おにぎり」でした。まっ白いお米がぎゅっと詰まったまんまる顔のおにぎり。その周りを、黒いのりのおかっぱ頭が包み込む。細かく切ったのりも私の笑った目を作り出す。そして、まっ白いお米の上に、ほんのりのったピンクのほっぺはさくらでんぶ。食べるのがもったいなくて困った覚えがあります。それでも、がぶっとかぶりつくと、中は私の好きな「しらす」や「シーチキン」「おかか」「さけ」が入っていました。白いご飯とマッチしてとてもおいしい「顔おにぎり」なのです。
 小学校を卒業するまで、ずっとずっと、母は「顔おにぎり」を作ってくれました。
 中学生になり、部活動に持っていくお弁当は、普通のふりかけご飯のお弁当に変わりました。中学の部活動は激しく、運動量も多いので、お腹がぺこぺこになるからです。もちろんお米の大好きな私なので、ふりかけご飯も大好きだし、おいしいので満足していました。そして、「顔おにぎり」のこともすっかり忘れていました。練習試合や大会の度に、お弁当を作ってもらいましたが、母が作る「顔おにぎり」はありませんでした。
 「顔おにぎり」の魔法に会わなくなって三年目。中学生最後の部活の大会の日、初戦敗退してしまった私達は、まだ涙のにじむ目で少し早いお昼を食べることにしました。私は、負けてしまったことであまり食欲がありませんでしたが、何か少し口に入れようと重いお弁当のふたを開けました。すると中から、なんと三年ぶり、懐かしい母の作る「顔おにぎり」が出てきました。私の目は嬉しさのあまり少しうるみました。
 三年ぶりの母の「顔おにぎり」は、私の顔おにぎりでした。白いお米とさくらでんぶのほっぺでした。その顔をながめていると、なんだか私に、
「がんばったね。よくやったよ。」
と言ってくれているような気がしました。私は、「魔法だ。」と懐かしくなりました。
 小さい頃、昔話のアニメの中で主人公が食べていた白くて大きなおにぎりが食べたくて仕方なかったことを覚えています。お米、白いご飯粒を一粒も残してはいけないと父母に言われ続けていたことを覚えています。私は毎日おいしいお米が食べられることに心から感謝をしています。そして、母の作ってくれる「顔おにぎり」に、再び会えたことに少しだけ感動しています。